「老後とピアノ」

最近テレビで見かけた方もおられるでしょう。

元新聞記者で、アフロヘアがトレードマークの稲垣えみ子さん

 

彼女が、朝日新聞社を早期退職した後、始めたのはピアノ

 

子どものころはお稽古がとても嫌で、続けるのをあきらめたそうですが、

「ずっとやりたくても、できなかったこと」として人生後半にはじめたピアノは、

今を楽しむことの幸せを教えてくれたといいます。

 

そして、

この経験を通じて書いた「老後とピアノ」という本は、

大人のピアノの始め方、向き合い方として、

とても参考になると思います。

 

それでは、少し長くなりますが、本の一部を紹介します。

 

 

 40年ぶりのピアノを再開した時、真っ先に先生に聞いたことは、

 練習の頻度について「あくまでも趣味だし、週2程度でいいだろう」と

 

 そうすると、先生からはまさかの反応が返ってきた……

 

 何しろ子供の頃は、とにかくメンドクサイ練習などしたくなかった。

 ゆえに、母に「練習しなさい!」と怒られる。渋々やる。

 でも嫌だからすぐしなくなる……

 

 要するに、練習とは「嫌々する」か「しない」かの2択であって、

 「どのくらい」などという

 高度な設問は我がピアノ辞書には存在すらしなかったのである。

 

 そう思うと、まあ私もそこそこ成長したのかもしれない。

 

 それはさておき、先生のお答えである。

 

 「あ、練習はできれば毎日してください」

 

 え、そ……そうなんスか!?

 

 もちろんやればやるほど良いに決まっていることは私にもわかる。

 

 にしても、この答えは想定外であった。

 だって所詮はおばはんの趣味であり、

 そんなにガツガツしたいわけじゃない。

 

 練習がイヤというわけではないが、

 自分のペースで、無理なく、

 楽しんで練習するっていうのも大人の世界には「有り」だよねと思っていた。

 

 例えば週2回とかね。

 つまりは毎日練習するつもりなんてさらさらなかった。

 

 大人になった今こそ、優雅に練習し優雅にピアノを楽しめるはずと、

 勝手に決めてかかっていたのである。

 

 ところが……まさかの毎日!

 

 思わず「ウッ」となる。

 

 いや待てよ。

 もしや先生、何か勘違いをしておられるのでは? 

 何しろ先生はプロのピアニスト。

 本気の人である。

 

 ゆえに、生徒も当然、本気で高いレベルのものを目指しているはずと

 思い込んでおられるのでは? 

 

 いやいや私、そういうんじゃないんで! 

 あくまで趣味でちょっとピアノが弾けたらイイなとか軽く思ってるだけでして……。

 

 だがそんな我が心の声が聞こえたのか、

 すかさず先生が説明してくださった理由を聞いて

 ガックリとうなだれる私。

 

 先生が「毎日」とおっしゃったのは決して根性主義でも何でもなかった。

 実に合理的な理由があったのだ。

 

 ピアノは練習すれば上達する。

 でもその上達は、練習を終え時が経過すれば徐々に消えていってしまう。

 

 なので、完全に消えてしまう前に再び練習することが大事なのだ。

 それを繰り返して初めて「上手くなって」いくことができる。

 

 「5分でもいいので1日1回はピアノに触ったほうがいいですネ」

 

 なるほど恐ろしいほどわかりやすい。

 

 というわけで、

 この翌日から私は本当に毎日ピアノに向かうこととなったのだ。

 

 今にして思えば、この時が人生の分水嶺(ぶんすいれい)であった。

 

 5分どころか、以来、来る日も来る日も最低2時間はピアノに向かっている。

 

 真面目だからとか熱心だからということではなく、

 5分ぽっちではとてもじゃないが、進歩など望めないことがすぐにわかったからだ。

 

 大人には大人ならではの、

 大人にしかできないピアノの楽しみ方がある。

 

 そう、大人のピアノが楽しい理由は、上手いとか下手だとかいう、

 ちっぽけなこととは別のところにあるのだ……と

 思わなければやっていられないではないか。

 

 なので皆さん、どうぞ私と一緒に冒険の旅へ!

 そこにはきっと、子供のピアノよりずっと深く味わい深い世界が待っていると信じて。

 

 

いかがでしたか。

紹介以外の部分は、是非とも本を手に取ってお読みください。

 

 

 

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